追いつけない人のこと




「人と比べると不幸になる、
比べるならば、過去の自分と比べなさい。」

最近、いろんな人がいろんな場所で、この内容を発信しているように思います。
一昨日Podcastで聴いた「ラジオ版学問ノススメ」でも弘兼憲史さんがおっしゃっていました。

本当にその通りだと思います。
思いますが、こんな風に思えるようになったのはここ何年かのことです。
それまではとにかく隣の芝生が青く見え、さらにさらに、どんなに頑張っても追いつけない、圧倒的にすごい人たちを意識してきました。

小1の時に、私が言葉にできなかったことを見事に詩にしたチエちゃん。
小4の時に、私が読めない「悪寒」の読み方を知っていたチアキちゃん。
高2の時、絶対に越えられない脚本を書き残したフジイ先輩。
高3の時、透き通る空と風を4m×4mのクラス旗に描いたタナカくん。

と、幼少期より何人かの身近なすごい人に勝手に負けてきたわけですが、25歳の時に出会った彼もまた、追いつけない存在の1人でした。

当時私は、3年間勤めた会社を退職して、デザイナーになるべく『デジタルハリウッド大阪校』という専門学校に通っていたのですが、Illustrator、Photoshop、Flash、GoLive、3dsMAX、どのアプリケーションを使ってもレベルの高いものをつくる人が同じクラスいたのです。

それがイセくんでした。

入学して間もないころ、天神祭で配るうちわデザインの学内コンペがありました。私は居残りして、覚えたてのIllustratorで四苦八苦したデザイン(とよべるのかどうかわからないもの)を提出。私だけでなく、多くの人が同じような状況でつくったものを提出したと思います。

しかし選ばれたのは、居残りしていなかったイセくんの作品でした。花火が盛大に打ち上がっている賑やかな図柄でした。

イセくんはまた、ホームページも開設していました。レンタルサーバーの借り方、独自ドメインの取り方、みんなが知らない時代にです。そして、ただ開設しているのではなく、トップページにはFlashを使った画像があり、しかもセンスがすばらしい。同じ徳島出身で同い年、けれどレベルが全然違う。何かもう、この人には絶対かなわないなぁと思いました。

クラスの人たちも、口には出しませんでしたが、イセくんの作るものや本人のバイタリティを尊敬すると同時に、どこかで「自分はこういうすごい人がいる業界に行こうとしているのだ」という怖さに似た気持ちを抱いていたように思います。ものづくりへの甘えは許さない、そんな厳しさを既に持っている人でした。

イセくんのまわりには彼の話を聞きたい人がいつもいて、私もたくさん話したいと思っていましたが、何だかうまく話せませんでした。自分の作ったものに自信がなかったからです。

卒業制作の時期が近づいたころ、イセくんが病気になり休学したということを聞きました。長期の療養が必要ということしかわからず、誰もが心配したのですが、卒業間近に何日か学校に来ていて、友人の作成したムービーのアテレコに協力した話などを聞き、ほっとしたことを覚えています。

卒業後、徳島に帰ってから、イセくんも活動拠点を徳島に移したということも手伝って、話す機会が何度かありました。

『タウトク』という情報誌の立ち上げに関わった話、独立した話、幕末の話、Tシャツの話、“徳島フォント”の話、デザイナーとしてのあり方、徳島のこと。

私も独立して頑張ってはいましたが、いつもクリエイターとして全力疾走しているイセくんの話を、ただただ「すごいなぁ」と聞くことしかできませんでした。話の内容がすごすぎて、未熟な私は対等に話せないのです。端々に込められた「丸くなるな、尖れ、尖れ!」というメッセージを受け取ることもできないままでした。

そんな中でも、私がつくったものを褒めてくれることが稀にあり、そんな時は本当に嬉しく、少しだけ自分に自信が持てました。

病気がよくないことは何となく知っていましたが、それでも次も会えると漠然と思っていました。でも、もう会えません。9/5、永眠されました。

私はまだこの事実に向き合うことができていません。もうすこし時間がたてば見えることもあるかと思いますが、今はわかりません。書いてみれば気持ちがまとまるかなと思ったけれど分散してしまいました。

とりあえず今日は「今」思い出していることを書いて、
ゆっくり焦らず向き合ってみようと思います。

やっぱり、イセくんには、かなわないな。

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